心は数学ではない

頑固なまでに言葉に固執する。言葉は魔法だ。言葉が人をつくる。心は言葉から成っている。また言葉は厄介な症状に転換されるし、症状自体が言葉を話すこともある。言葉は物理的に肉体に影響を与える。あらかじめあるものではなく、湧きでるものこそ言葉の特徴といえる。慣れた文筆家なら言葉が、芋ずる式に次の言葉を引っ張りだすのを知っている。これは手品よりも不思議な現象であるように思える。一連の言語群が突然姿を現わすのだから。些細な言葉をキッカケに次々と未知なる扉が開かれる。これは驚嘆に値する人間知性の能力である。おそらく言葉は単語単位で切れておらず、糸のように繋がっている。単語だけを喋ることは、そもそもできないのであって、できたつもりになっているだけに過ぎない。そうではなく実際は無限に長い糸の各点上に、言葉が乗っかっている姿が正しいようだ。糸は何本もあり、縦横無尽に立体的に構成される。これらは意味を形成しているが、それは意味を、そこに見いだしたときに限る。ふとした拍子で一個の言葉によって意味の形成がその場でつくられる。言葉は決してデジタルではない。意味内容の凝縮と拡大はアナログ的に行われる。デジタルではないとは、言語活動を数式で表現することは不可能であるということを意味する。21世紀は数学が人気を博しているものの、人間の根源をなす心は数学とは正反対なものであると断言できる。あなたが信じるかどうかは別問題だが…