手紙の命令

その母親は片手に乳児、もう片方に捨てるはずの手紙を持っていた。だが、ごみ箱に落とされたのは乳児の方だった。はっと意識がはっきりすると、驚いたことに「これでいいのだ」と誰にも聞こえない声で独りごちた。そうしてくしゃくしゃの手紙を広げてみる。読み返せば「これでいいのだ」の意味が明瞭になり安心するのであった。のちにこの乳児は善意の者に拾われ大切に育てられた。手紙は運命に点火を施したのであった。