壁妄想

目の前に壁がある。どんな壁か正体は知らぬが、壁があることだけは揺るぎない事実である。この壁のために私は自由を制限されている。壁は、私が育つように育っていった。謂わば私の子供ともいえる。ときに壁の方からこちらにメッセージを送る。メッセージには私の知らない私が印刷されている。理解できないメッセージもある。壁は私のものだが、同時に未知なる他者でもある。壁は鏡だ、という者もいるが、どうもそのようではないらしい。壁は乗り越えるべきものという偏見がある。確かに壁によってその先が見通せなくなっている。だったら低くすればいい。私の眼がそれよりも高い位置にあれば問題は片付く。壁は私から派生した部分であるから、つまり私とは関数みたいな関係なので、私の考えによっては途方もなく巨大になったり、逆に消えてなくなるかもしれない。壁を壁と考えることじたいそもそも見当違いなのかもしれない。私の壁という言い方が些か傲慢のように感じる。壁が私を超えて別の世界の所有物になる可能性だって否定できない。私の分身が独り立ちして、主であった私を愚弄しないとも限らない。だから、いまのうちからせめて信頼関係を築いておこう。万が一、意に反して暴走したときは絆の糸を手繰り寄せればいいのだから。